小説

『つんデレラ』笹本佳史(『シンデレラ』)

少し時間をさかのぼった今朝のこと。
シンデレラの部屋をノックした。返事がない。黙って扉を開け、中に入る。
シンデレラは上下グレーのスウェット姿で可愛らしい猫のキャラクターがプリントされたサンダルを履き、椅子に深く掛け出窓の縁にクロスさせた両足を投げだし、くわえ煙草で物思いにふけっていた。オキシドールで染めたと思われる金髪はまばらだ。私は深呼吸をひとつしてからシンデレラに話しかける。
「シンデレラ。舞踊会の件は残念だったわね。ママは見栄っ張りなところはあるけど、ほんとはとっても心優しいのよ。ただみんな浮かれてるのよ。ネエ様もはりきっちゃってポテトをSサイズに変えたのよ。」
しばらく沈黙。シンデレラは短くなったタバコをメッキの灰皿にぐりぐりしながら
「もう慣れっこだし」
とそっけない態度。
(あっ、やっぱそういう感じなのね。まぁそんな態度になっちゃうのはわかりますよ。充分承知しております。でも、でも、でもあなたは可哀相なお姫様を演じることをやめて不良モードに突入してるに過ぎないの。ただの「心に闇を抱えたヤンキーな私プレイ」なの。ほんとのあなたはそんなじゃない!)
私は心の中で叫んでいた。反面こうも思った。
(じゃ、じゃ、じゃ私はなに、、私は、元いじわるお姫様?ん?元?待て待て!元ってことは、じゃ、現なに!?)
いろんな騒動の末、私の中にあったあれほど深くて重くて冷たい巨大なシンデレラコンプレックスが既になくなっていることに気付く。
私は努めて軽い口調で話しかける。
 

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