小説

『透鳥』生沼資康(『ナイチンゲール』)

 それから毎日、僕は餌を置くことにした。そして巣を覗くたびに餌は欠かさず無くなっていた。巣箱を覗いてもそこを訪れる鳥の姿が見えないけれど、こちらの気持ちとしてはなんだかそれで十分だった。

 依然鳥の姿は見えないまま数日が過ぎた頃、夕飯に父が芋の煮付けに箸をかけながら呟いた。
「今年は鳥が寄り付かないな。」
「鳥?」
 父は思っていたことを僕に言うつもりは無かったようで、僕の反応を見て一瞬驚いた表情をした。
「ああ、そう、鳥がな、今年はいないなと思ったんだよ。春の鳥の鳴き声が全く聞こえないんだ。毎年この季節になったら、シジュウカラとか、ムクドリとか、あとウグイスだな。ウグイスの鳴き声は好きなんだがなあ。」
 父は芋を箸で掴みながら言った。
「でもな、夜にはなんだかフクロウのような鳴き声が聞こえたな。珍しいことがあったもんだ。」 
「フクロウ?」
「俺が子供の頃はいっぱいいたんだよ。お前は聞いたことがないか?」
 いや、と僕は首を振った。
「そうか。まあ俺も久しぶりだったから、少し驚いているんだよ。ここ2週間ぐらい毎晩鳴いているみたいだぞ、ホウホウと。それも割と近いんじゃないかな。」
 2週間。庭に設置した巣箱が思い当たった。にわかには信じられなかったが、あり得るのかもしれない。


 

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