小説

『イン・ワンダーランド』花島裕(『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』)

ツギクルバナー

 穴に落ちたのはあのときだった。
 「藤堂ありすです」
 とみんなの前で自己紹介したあの日。親の都合で中二の二学期から転校した私は、新しいクラスにとってゼロの存在だった。
 むしろ名前負けの平々凡々な容姿からすると、マイナススタートだったかもしれない。ちょっと教室がざわついたし。(自分の名前は好き。実写映画が流行ったときは、意味もなく鼻が高かった)だから情けないけど、私は必死だった。選ぶ権利なんてない。どこか女子のグループに入って、どうにかこの半年を乗り切らなきゃ。そう思ってた。
 宇佐美実恵に声をかけられたとき、私は本当に嬉しかった。彼女は色白でぷっくりしたほっぺをもった、可愛い感じの女の子だ。
 「ウサって呼んで」
 半歩先を歩いて、ウサは学校中を案内してくれた。足の遅い私は早足で跳ねるように歩くウサについていくのに必死だった。トイレや移動教室もいっしょ。彼女が勧めるものはシャーペンでもキャラクターグッズでもなんでも欲しくなった。手に入れられるものは手に入れた。私はウサに追いつきたかった。

 三週間ほど過ぎた頃、ウサが姿を見せなくなった。といっても、同じクラスにはいる。
 ウサはいつの間にか一番目立つ女子のグループに入っていた。追いかけても追いかけても届かない場所に。
 

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