小説

『山月記トロピカルVer.』横山信之介(『山月記』中島敦)

「コータロー?」
「そうだ。同じ大学のゼミメンバーだったろう?」
「ゼミ・・・。そうか!どこかで聞いた声だと思ったら。山中教授ゼミの鉄道オタクのあのコータローか!」
 マサキの合点がいった表情を見せるとコータローは少し安堵した。
「何やってんだよ。こんなとこで」
「パイナップルやってる・・・」
「そりゃ見ればわかるよ。何でそんな姿になっちまったんだ?」
「マサキ、聞いてくれ・・・。俺は人を憎むうちにパイナップルになってしまった」
「人を憎むうちに・・・。何があったんだ?」
「ああ。お前は持ち前の明るさと処世術で就職活動は濡れ手で粟の一掴みだったろう?」
「いや、そんな事は無いけど」
「謙遜するな。だが俺はダメだった。どこも内定をもらえなかったんだ。この一年、社会不適合者の念に駆られ俺は自宅に引きこもるようになった。親は就職の事は何も言わないが内心残念だろうな。大学まで行かせて就職できないもんな。ウチの子コスパ悪すぎって感じ?」
「そうか・・・それは気の毒にな」
「俺より学歴が低い奴。俺より勉強できない奴がなぜ採用されるのか。企業から届く不採用通知には金太郎飴のような紋切り型で無機質な文が印字されているだけ。他者と比べて俺のどこが悪かったのか、他者のどこが優れていたのかフィードバックはまるでなし。只々あなたは社会的価値が無いですよと言わんばかりの通告だ」
 パイナップルコータローは悔しさで目に涙を湛えているようだった。
「だからナイフを買ったんだ。いつか俺を落とした人事と挫折を知らない新社会人に復讐しようとな・・・」
 

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