小説

『私の桃源郷』秋山こまき(『アラジンと魔法のランプ』)

 と、その時だった。
 灰色の空に、ポッカリと小さな穴が開き、そこから金色に輝く光が差し込んだ。私は一目散にその穴に向かって飛び上がった。
 穴から出てみると、空は青く晴れ渡っている穏やかな海辺だった。私はその砂浜に立っていた。
 目の前には女がいて、あ然とした表情で私を見つめている。女の横には小さな女の子もいて、目をパチクリさせている。親子だろう、二人ともやさしそうな顔立ちだ。
 でも、彼女たちの身なりから裕福ではないと一目で分かる。色あせた服。所々ほころんでいて、つぎあてがされている。
 母親は抱きかかえる様にランプを持っていた。
 私は感謝した。
「ありがとう。あなたたちが、そのランプから私を出してくれたのだね」
「は、はい」
 母親が澄み切った声で小さく答えた。謙虚な人だ。
「おかげで暗黒の世界から抜け出せた。お礼に願いごとを何でも叶えてあげよう」
「あたし、パパがほしい」
と娘が大きな瞳で私を見つめた。

 ずっとずっと昔、アラジンという青年にランプから出してもらったことがある。アラジンは最初、どうしようもないガキだったが、段々と立派な大人に成長し、美しい娘と結婚して、幸せな生涯を送った。
だけど当の私は、出来の悪い女たちに引っ掛かり、ひどい結婚生活を幾度も繰り返した。
 

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