小説

『図書館員、人類を救う』平井玉(『天の羽衣』)

「もう少ししたらできるから、待っててね」
 うんうん、とうなずいて、外に出て、干してあった投網を直し始める。
「ヒロヨんとこの女房は、いつ見ても別嬪だな。おめえみたいなぼさっとしたのがどうやって見つけたんだか。逃げられないように気をつけろや」
 隣のうるさい婆さんが声をかけてきた。毎日同じことを言われている気がする。どうやって見つけたんだか自分でもはっきりしないが、逃げられないように気を付けてはいる。女房の行李の中に、光り輝く布地で、羽のように軽い衣が入っているのを見つけたのだ。どうも人間離れしていると思っていたが、あいつは天女に違いないとヒロヨは思った。衣を隠している限り、天には帰れないはずだ。ヒロヨはそれを、藁の束の中に隠しておいた。食事だと呼ばれて家に入ろうとしたとき、頭の片隅で妙な声が響いた。
 ワレワレハ、カンシサレテイル
「なんのことやら」
 足取り軽く家に入ったヒロヨは、幻のことも、声のことも、衣のことも忘れ、女房ににっこり笑いかけた。

 

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