小説

『Kのはなし』山田蛙聖(『三年寝太郎』)

5 対決

 シュンスケは授業の移動時間など、時折3組の前を通る時、廊下からクラスの中を伺う。それはKの姿を見るわけではなかった。Kはクラスの誰彼に囲まれていて姿を見ることはできなかった。みな必死だった。
 シュンスケが廊下から覗き見ていたのはアカネだった。
 あの三人組のひとりのアカネだった。
 今では誰もアカネと言葉を交わすものはいなかった。アカネと目が合うだけで、Kの災いが降りかかってしまうと信じられていた。
 クラスの一番後ろの席にただ黙って座っていた。じっとKを睨みつけていた。

 ある日事件が起こった。
 昼休み中3組の中には他のクラスの生徒たちが、Kに合格祈願に来ていた。まあ、Kのご機嫌取りにきていた。
 人だかりの横をクラスの女子が売店で買った紙コップのコーヒーを持って横切った。彼女としてみれば慎重に慎重を期して歩いたつもりだったのだが、一群のなかのひとりが彼女にぶつかった。その拍子に彼女は持っていた紙コップを落としてしまった。
 運悪くコーヒーの飛沫が何滴かKのカバンに飛んでしまった。彼女は蒼白で震えながら何度も何度もKに謝った。
 Kはというと、いつものように聞いているのか聞いていないのかわからない、惚けたような表情で彼女の方を見もしなかった。周りの取り巻きのおかげもあり、その場は無事済んだように思えた。取り巻きたちの表情には彼女を哀れむ色と安堵がありありと浮かんでいた。
 

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