小説

『Kのはなし』山田蛙聖(『三年寝太郎』)

 下校途中のKが道端で轢かれたか何かして倒れていた猫を見つけた。Kは猫の額を優しく撫でた。すると、その猫が突然、にゃーと鳴いて立ち上がると、どこかへ立ち去っていったというのだった。
 Kには死者を生き返らせる力があるというのだ。
 それにこんなのもある。一年生か誰か女生徒がものもらいに悩んでいた。医者に行っても一向に良くならない。そこで、Kに診てもらうことにした。Kはその子の目にふっと、息を吹きかけた。すると、たちまちのうちにそのものもらいが治ったというのだった。
 まるで昔話のような呑気な噂が流れていた。
 Kが学校に復活して一ヶ月。生徒たちはそれぞれにKという恐怖に慣れてきたのだろうか。
「それに、三年の女子の間で、Kに合格祈願する子たちが出てきたの知ってる?」
 それは初耳だった。シュンスケたち中学三年生にとって、これから控えている高校受験は一生を左右する出来事だと言っても大袈裟ではなかった。多くの者が有名私立の付属高校を目指していたから、入学してしまえばほとんどが大学までエスカレートで行けた。そこに乗れるか乗れないかで人生の大半が決まってしまう。
 藁にも縋りたい気持ち、Kに願掛けする生徒たちの気持ちがシュンスケにも痛いほど分かった。それだけ、受験はストレスになっていた。
「あーあ、学校なんかもうやだ。ぶっ壊れちまえばいいのに」
 受験の話題を振ってしまい、気まずい空気を感じたのか、シホはおどけた調子のメールを送ってきた。でも、それだけに逆におどけた仮面をつけた真実の心の声だった。もちろんシュンスケも同じだった。
 Kが登校してきて学校側はより一層、生徒たちに厳しく接するようになった。いままで以上に校則に縛りつけた。そうするしかKへの恐怖への対処が分からなかったのだろう。
「Kは我らの救世主」
 ネットにはそうも書かれていた。
 生徒たちはKを恐れ、Kへの恐怖に縛られながらも、Kの力に期待し出していた。この息苦しい学校の世界から、解放してもらえるのではないかと。Kの復活で、さらに息苦しくなった学校の世界。その世界から解放する力を持つものもKだけなのだろうか。
 

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