小説

『Kのはなし』山田蛙聖(『三年寝太郎』)

4 ふたつのK

 ネットの世界はシュンスケたちにとって逃避できる唯一の場所だった。
 どこから? それはもちろんこの窮屈な学校の世界からだった。いつもシュンスケたちは学校の世界で息を殺して生きていた。家にだって安息の場所はなかった。家にいたってイライラする家族がいるだけだった。それに、学校の世界の住人である友だち達はどこにいてもお互いを見張り縛りつけようとしていた。ある意味学校の担任たちよりタチが悪い。
 それもこれも学校がいけないのだ。学校という得体のしれない化け物にシュンスケたちや、もしかすると生徒たちを監視する担任たちも、支配されていたのかもしれない。
 息苦しさを感じて喘ぎながら振り向くと、そこには学校が静かな威圧感をもって佇んでいるのだった。そのネットの世界が学校の世界を侵食し出した。もしかしたら逆なのか? それはシュンスケにも判断できない。
 いままでネット上だけで話されていた噂が現実の学校の生活でも現実味をもって話されるようになった。ネット上だけで許されていた、ハンドルネームによるもう一人の自分もいなくなった。
 ネット上で神のようなKと噂された幸太郎が、実際にKとして現れた。Kは復活したのだ。
「KとはKILLの頭文字」そう誰かが書き込んでいた。
 ケイタとアサトの事故が止めをさす形で、シュンスケたちはKを恐怖をもって迎えた。
 特に怯えていたのは3組のクラスメイトたちだろう。彼らもまた三年前の加害者と言われても反論できない立場だったのだから。
 事実、クラスメイトのだれかれが、週一間隔でなんらかの災いに見舞われているようだった。ほんとうのところは、本人が学校に来ていないのだからわからなかったが、ぽつりぽつりと3組に欠席者が増えていった。
 3組の担任も昨日から来なくなった。
 

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