小説

『Kのはなし』山田蛙聖(『三年寝太郎』)

「冗談だろ。だって、俺の旧友だぞ、旧友が神ってことはないよ」
 友だちに神がいればなにかと便利だとは思うが。
「いやほんとだって、だって……」
「だって?」
 シホは顔を赤らめて答えた。
「だって、私、しゅんくんと付き合いたくて、街で夜たまたま見かけたから、ダッシュしてKの肩タッチしたの。そしたらほんとに付き合えた」
 可愛いやつ、ってことになるんだろうけど、どうも複雑な気分。
「そんな話いっぱいだよ。友だちにもたまたま街で見て、拝んだら模擬テストの点が一気にアップしたってのもいるよ。あと、横断歩道で引かれそうになったおばあさんを助けたって話もあるし」
 いったいどうなっているのか? 虐められ爪弾きされた幸太郎が急に持ち上げられるなんて。
「でもほんとうにそれ幸太郎なの? 街で会ったの?」
「たぶんそうだと思うけど、私、学校ではKのこと見たことなかったからなんとも……」
「じゃあ、誰かまったく関係ないひとだったりして」
「まっさか」
 シホはケラケラ笑った。
 その夜、シュンスケはシホの言っていたことを確認した。シホの言う通り掲示板にはKの不思議な奇跡の噂が溢れていた。とくに受験に対してご利益があることがよく書き込まれていた。天神様K様といった具合に。
 

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19