小説

『蛤茶寮』水里南平(『蛤女房』)

(5人もいる!)
 人数の多さに驚きもしたが、全員が女性であったことに胸をなで下ろした。
「ご主人様。どうぞ、よろしくお願い申し上げます……」
 次々に挨拶をされる。みんな少し元気がないように見えた。話を聞くところによると、海の環境悪化により、苦しい生活を強いられていたということである。彼女たちに必要なのは、生活の場所であった。これは完成済みである。浴槽に砂を深く敷き、海藻を植え、真水に海水の素を入れて海水を作り、ベルリン式設備で海水の対流と濾過をさせる。温度調節については、浴室換気暖房乾燥機を取り付けてある。
 私は、それだけのことしかしてやれないことに、やたらに申し訳ない気持ちになった。しかしながら、彼女たち自身は、清らかで安全な住処を得られたことが嬉しそうであった。
「ということは、みんな、ずっとここにいるのか?」
「私も、彼女たちも、汚れた海では長く生きられません。お情けです。ここに住み続けさせて下さい」
 私は快く了承した。
 仕事であるが、厨房は最初にいた彼女-今では『浜実』と名乗っている-とサブとなる子が取り仕切り、ホールマスターが私、他の4人は状況に応じて厨房かホールのカバーをする。休憩については、交代で適宜に取ることになった。店の外観もホールも、彼女たちの手作業で見違えるほど華やかで綺麗になった。いよいよ店を再開する。

 初めの内はお客の入りが悪かったものの、しだいに繁盛していき、店は大賑わいとなった。「味は感動を覚えるほど、接客も完璧、店もシックな作りで良い」と評判であった。お客が来すぎたために、予約制にせざるを得ないほどになった。借金も早々に完済し、蓄えも増えていった。しかし、これらは彼女たちの力なのだ。私は何もしていない。
 

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12