小説

『蛤茶寮』水里南平(『蛤女房』)

「分かった、そうしよう。それだと、しばらくの間は店を休みにしないとな」
「はい……でもそれが、私の身を案じていただいてのことでしたら、ご無用にお願いいたします」
「どうしてだ?」
「私の命は、元より、ご主人様に助けていただいたものなのですから」
「そういうことは言うな!」
 私は怒りを覚えた。いや、彼女が未だにそういう言動をすることに寂しさを覚えたのだ。彼女のお陰で、多くのお客に来ていただけるように、そしてより満足をしていただける店になったのだ。私は、彼女に感謝していたし、もう少し頼って欲しいとも思っていた。
「これからは、もう少し私を頼ってくれないか?」
「ご主人様に頼ることなどは恐れ多くてできません。ここにいさせていただけるだけでも過分なのですから」
 私は、その返答に落胆した。

 風呂は2階に造ることにした。奥の9畳の間がすべて浴槽、6畳の間が脱衣場と機器置き場である。意外と費用がかかるため、私は店を担保に融資を受けた。
 何だかんだで、風呂が完成するまでかなりの日数を要した。
 風呂が完成した今日、この日に会わせて仲間を迎え入れるため、彼女は外出をしている。
 一点気がかりがある。いや、恐怖感と言ってもよかった。彼女の知人というのは女性であろうか? もしも、男性であった場合、その汁を飲まなければならないのか?
 彼女が帰ってきた。
 私は、恐る恐る出迎えた。
 

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