小説

『傘売りの霊女』香城雅哉(『マッチ売りの少女』)

 あの日、空は私をあざ笑っていた。雨傘を並べれば晴天になり、日傘を並べれば雨天になり、雨傘と日傘の両方を並べれば曇天になった。空は生きていた。
まもなく私は息絶えたらしい。

 行き交う人々は私に一瞥もくれない。そもそも私という存在が見える人間はごく少数であり、特殊な力の持ち主に違いない。成仏できない霊という自覚はないが、おそらく俗に言う地縛霊なのだろう。怨念はない。あるのは迷いだけだ。
 生前、私は傘を売って生計を立てていた。傘の素材となる傘生地・傘骨・持ち手などは両親が仕入れ、職人である祖父が傘を張る。出来上がった傘を私が露店を出して売る。観光場所として名高い神社の近くに露店を構えており、評判は悪くなかった。しかし、傘は小銭で手に入る時代に移り変わっており、お札を出さなければ買えない傘に興味を示すのは物好きの旅人だけだった。
「傘は芸術品じゃ」
 祖父の口癖だった。職人気質に溢れ、傘を作ることが全てだった。生活は苦しく、両親は店を閉めることを幾度か勧めたが、祖父は決して首を縦に振らなかった。私は心身ともに疲弊していた。傘売りとしてこのまま人生を終えるのではないか?という不安が付き纏っていた。そんな、ある日、祖父が倒れた。
「傘をたたむ」
 病床で力なく呟いた祖父の言葉に安堵したことを覚えている。もう傘を売らなくて良いことだとすぐに分かった。祖父は他界するのだが、息を引き取る直前に私はあることを告げられた。

「傘みたいな人間になるんじゃ」
 

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