小説

『白雪姫は何人?』こさかゆうき(『白雪姫』)

 私は首を横に振った。今日はもう、お腹がいっぱいだった。
 そばをすする香取の横顔をぼんやり見ながら、私は心に決めていた。月曜日になったら、生徒に聞こう。彼らがどう考えているのか。白雪姫は、何人必要なのか、と。自分の正論を振りかざすのではなく、彼らの意見を聞こう。そして、今日電話をしてきた保護者に、子どもたちの意思を堂々と伝えよう。
 会計を済ませて外に出ると、心地よい夜の風が私の頬をなでた。
「タクシーですよね?一緒に乗っていきますか?」
 香取は、通りを行き交う車の流れからタクシーを探していた。
「いえ、酔い覚ましがてら歩いて帰ります」
 私はそう言うと、「今日はありがとうございました」と頭を下げて、歩き出した。香取は追ってこなかった。
 見上げれば、星が輝いている。夕方学校を出たとき、まさか今日という日をこんなに晴れやかな気持ちで終われるとは想像もしていなかった。
 愚痴を言って慰めてもらうくらいのつもりだったのに、色黒体育教師から教師として、人として大切な教訓を得てしまった。
 自分の正論を押しつけるのでなく、相手の意見に耳を傾けましょう–
「いや、ちがう」
 私は苦笑しながら首を振った。彼が私に示したのは教訓なんかでなく、もうひとつの視点だった。
 

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