小説

『Still Before the Dawn いまだ、夜明け前』角田陽一郎(『夜明け前』島崎藤村)

そんな外圧が襲って来て、次第次第に日本国民はネットという囲いの外に拡がる獰猛で自由な新たな世界を認知していき、それまで牧歌的だった日本のテレビという囲いの中は、こじんまりと収まった番組が益々多くなり、一応それでもテレビの中の人気番組の総合演出の自分は、2006年秋ついに新たに『人気芸人を司会に迎えたゴールデンの大型番組』のプロデューサーも兼務することとなり、それはまがいなりにも自分の国を複数持つことを意味し、それは長年夢見た天下一統という夜明けの姿だったのかもしれないけれども、囲いの外の世界を知ってしまった今となっては、それは全く闇の晴れないもので、夜はまだ果てしなく続いていて、そんな夜の中で今まで以上に悪戦苦闘して戦いに挑んだものの、その新しい番組はさして人気も出ず、俺に任せりゃ人気番組なんか簡単に作れるぜ!って鼻っ柱はポキっと折られ、囲いの外に出るまでも行かずに囲いの内のテレビの中で完膚なきまでに負け、2年ばかりで番組は終了し、国は召し上げられることになり、担当番組が無くなると通常はプロデューサー・ディレクター・ADはどこか別番組にシフトされるのだが、でも上役から「お前も大分ベテランになったし、それにどうせお前はまた自分で企画作るんだろ?だからとりあえずどっか別の番組にはシフトしとかないから」とかなんとか言われて了解し、部会で発表された担務の書かれた新しいシフト表には自分の名前が当然乗ってなく、まあそれは自分も納得したことなので文句はないのだが、今まで人気番組を作ってきて、自分では会社のエースだ!くらいの気持ちでいたので、自分の名前のないシフト表を見てかなり寂しくもあり、でも決して落ち込むことなく、また新たな番組を作るぞ!なんてある意味気合いが入っていたのだが、翌日、会社に行ったら自分の座席が無くなっていた。
 

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