小説

『Still Before the Dawn いまだ、夜明け前』角田陽一郎(『夜明け前』島崎藤村)

まもなく21世紀を迎える世紀末の90年代終わり頃に同時に20代の終わり頃を迎えながら、1970年ちょうど生まれの自分は年齢計算が簡単だなと感じつつ、21世紀は30代か…などと来るとは思えない21世紀を想像していたのだが、それは子どもの頃話題になったノストラダムスの大予言の99年の7の月、恐怖の大王が降ってくるという、滅亡説をなにげに信じていて、きっとその1年前とかから徐々に滅亡に向けて世界は盛り上がってくるんだろうって、というか99年の7月の直前の5月とか6月は人類はどんな状態になってるんだろうって、子どもの頃から長年心配しつつむしろすごくワクワクしていたのだが、実際その直前になっても、テレビでも雑誌でも新聞でも、ノストラダムスが話題になることは皆無で、もしかしたらファンタジー映画のようにいつの間にか名もなきヒーローが自分の命を賭して恐怖の大王と戦って地球を救ってくれたのかと邪推するほど何も無いままいつの間に恐怖の大王はいない者になっていて、代わりと言ってはなんですが2000年を迎える1999年の大晦日にはコンピューターがクラッシュする2000年問題が起こって飛行機が落ちたり原発がクラッシュするとかが盛んに叫ばれていたが、それもまたSF小説のように聡明な科学者が人知れず作業して頑張って僕らを救ってくれたかのように、大晦日は全く何も起こらず、無事2000年を迎え、同時に自分は30歳になり、20代は闇だったけどドキュメントバラエティブームに乗っかって毎週高視聴率を叩き出し、それもちょっと自分のおかげかと少しだけの優越感を持ちながら、これからはいよいよ夜明けを迎え明るく輝く21世紀の到来なのだろうと感じていたら、翌年の入社8年目の2001年秋には華やかな『人気アイドルを司会に迎えたゴールデンの大型新番組』をついに総合演出として任されることになり、そういう意味では一国の城持ちくらいにはなり、状況で言えば長浜時代の羽柴秀吉だなとか思いつつ、秀吉のように天下一統を密かに望みつつ、ならば自分が得意の、というかあんだけ寝ないで作らされればそりゃ上手くなるよなって感じでいつの間にか得意になっていたまさにドキュメントロケバラエティをやろう!でもせっかくやるからには安っぽいフィクションではないもっと現実に迫ったリアルな新しいロケ企画をやろうと、あれをやろうこれをやろうとアイデアを出しながらしこしこ人気構成作家と会議していた夜分、その会議室の隅につけっぱなしで置いてあったテレビの画面では飛行機がビルに突っ込んでいた。
 

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