小説

『プラネタリウムの空』中野由貴(『シンデレラ』)

 プラネタリウムのことまで思い出したのは、驚きだった。過去の思い出は、おもいがけない記憶にもつながっているのだろうな。
 古めかしい輸入食品店のウインドーから少し歩いた先に地下道入り口の階段がある。ここを降りると、あのビルヂングに入っていける。
「そんなところで、エスカレーターだ」
 私は立ち止まる。
 この歳まで生きると精神構造がどうにも厄介になる。何の不自由もないはずの便利な世の中で、どうしてこのエスカレーターの不便さに誰も気がつかないのだろうかとぼやいてしまう。時代は人間の意志なんて無視して、勝手に進んでいくのに、この便利な動く階段は、時代が変わっても基本的な形を変えようとしない。このエスカレーターに、私は小さい頃からずっと手こずっている。上りでも下りでも、私は最初の一歩が苦手なのだ。足元から次々出てくる階段のどれに乗ったらいいのかと迷い、気をゆるめると、バランスを崩してゴロンと落ちてしまいそうになる。私は、いつもこの一歩のために、心の中でえいやっと掛け声をかけ続けている。しかしこんな私でもエスカレーターは乗ってしまえばいつもちゃんと目的地まで運んでくれる。
 今回も。
「コンニチワ ヨウコソ」
 見慣れない「窓口」の中に愛想ないロボットがいる。
「ココカラ、過去ノプログラムニ入リマス」
どうせならここも人間にしたらいいのに。差し出されたコンピュータの端末機に申し込み時に希望した数値を入力する。すると説明書きが現れた。
「大まかな年代は区切られております。
①明治・大正のハイカラコース
②昭和の高度経済成長コース
③昭和の激動コース
④平成の平和な東京コース
以上の四つから選択してください」
 私は平成コースを選ぶ。
「リョウカイシマシタ。一九九〇年代デスネ。デハ、ツギニ、ココニ一カラ九マデノ数字ヲ入レテクダサイ」
 

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