小説

『プラネタリウムの空』中野由貴(『シンデレラ』)

ツギクルバナー

 改札口をぬけると「ああ東京に帰ってきた」という気分になった。もうプログラムは始まっているのかもしれない。私の頭の上にある、プリンアラモードみたいなドームが、だんだん白く色あせていく。ポケットに手を入れてチラシをさわってみる。
「ちゃんとある」
 そして気持ちを落ち着ける。
「あなた、参加者でしょう。そっちの出口から行ってください」
ドームを見上げていた私に、駅員が近づいてきた。改札ロボットが普及する中で人間の駅員に声をかけられる機会なんてそうはない。
「どうして私が参加者だとわかったんですか」
「チラシ持ってるでしょう」
「ええ」
「そこに識別ICが埋め込まれているんですよ。改札を通る時に反応するようにできているのです。何しろあのビルヂングに行かないとなにもはじまらないのでしょう」
 今の技術では、薄っぺらい紙切れに百メガバイト以上のメモリを埋め込むことくらい朝飯前なのだ。人間の欲望はあらゆるものを実現可能にする力を持っている。昔と同じ姿をしていても、それは必ずしも同じではない。
 頭の上のドームは、しばらくするとすっかり白く乳白色に輝いた。
「そう、この天井。ほっとする」
 数十年前、東京駅永久保存運動があり、おかげでこの駅は昔の姿のまま維持されている。それでこれまでここが舞台になった、今でももう古典になってしまった文学作品や、写真や映画に登場する同じ風景の中に、誰もが立つことができる。そしてこれからもずっとこのまま残される。けれども天井のさらに高いところにあるドーム状になっている部分。私が知っている乳白色のドームは、さらに昔の「もとの形」に復元され、現在は黄色がベースの装飾のあるドームになっている。茶色と白の模様がついていてまるでプリンのようなドームに。
 

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