小説

『救われた人魚姫』あべれいか(『人魚姫』)

「風香、未央ちゃん大丈夫だったの?」
「うん。なんとか落ち着いたみたい。」
 未央を送ってから家に戻ると、母がキッチンで夕食の準備をしていた。数時間前、大惨事の未央を私と共に玄関で出迎えた母も、未央のことを心配していたみたいだ。
「お夕飯もう少しでできるからね。」
「私も手伝うよ。」
 戸棚から母とお揃いのエプロンを取り出して、キッチンへと向かう。このエプロンは、父が私たちにプレゼントしてくれたものだ。「2人並んでお揃いを着てくれると嬉しい。」、と家にいる時はニタニタしながらキッチンを覗きにくる、ちょっと変態な父だけど、私はたくさんの愛情を注がれて育ったと思う。
「あ、そういえば。お父さんが近いうちにまた本を寄付しに行くって言ってたから、風香もいらなくなった本は玄関にまとめて出しておいてね。」
「うん、分かったー。」
 お味噌汁の味見をしながら、思い出したように母が言った。本好きの父の影響で、私もたくさん本を読む。そのため、いつも気が付くと本棚は本で溢れかえってしまっているから、何年かに一度、いらなくなった本は近くの図書館に寄付をしているのだ。
 でも、好きな本は何度も読み返したいし、手元に置いておきたい。どの本を残して、どの本を寄付しようかと、夕食の時は母の話もそっちのけで、本棚の整理について頭を悩ませた。

「あ、メール来てる。」
 夕食後部屋に戻ると、ベッドの上に置いたままにしていた携帯にメールの通知が来ていた。携帯を手に取って、メールボックスを開くと、未央からだった。「話聞いてくれてありがと。ちょっと落ち着いた。」という内容に、ホッと胸を撫で下ろす。未央を少しでも元気づけられるように、一生懸命メール文を考えて返信をする。
 送信完了の文字を確認し、画面から顔を上げた時、突然携帯が震え、着信を知らせる。予期せぬ事態に慌てて通話ボタンを押した。
 

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