小説

『救われた人魚姫』あべれいか(『人魚姫』)

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「え、それどういうこと?」
 いま私の部屋のベッドの上で、メイクが崩れパンダ目になりながら泣いているのは、中学時代からの友人で同じ高校に通っている親友の未央だ。
「だからぁ、結城は私に告白する予定じゃなかったってこと!もうサイテー!」
 さっきまできちんとセットされていたであろう、毛先が少し巻いてある髪の毛を振り乱しながら、おいおい泣き続ける未央の背中を優しくさする。そして、数分前に未央から聞いた話を、もう一度自分の頭の中で整理する。
 未央には結城君という彼氏がいて、今日が付き合って2か月の記念日だった。今日は休日ということもあり、朝からデートに出かけていた2人。そして、ふと未央が「何で私のこと好きになってくれたの?」と、結城君に自分を好きになったきっかけを聞いたことが、今回の騒動の発端。
 結城君は高校の入学試験の日、筆記用具一式を忘れてしまった。武器を忘れては、戦で戦えない。“死”を覚悟した時、「どうぞ。これ使って。」と、隣の座席の女の子が鉛筆と消しゴムを貸してくれたそうだ。
「長い髪がとても綺麗だなって思ったんだ。」
 そう照れくさそうに笑う結城君に未央は絶句。
「……それ、私じゃないんだけど。」
 買い物から帰ってきて、未央からの鬼のような着信履歴を目にした時は一瞬ホラーかと思った。
「うーん、でもそれで別れようとかってわけじゃないんでしょ?」
 泣き過ぎてパンダ目どころか、鼻水まですすり始めた彼女にティッシュを手渡しながら、これ以上彼女が傷つかないよう、慎重に言葉を選ぶ。
「うん。でも、なんか複雑だよ。……実は人違いだったとかさぁ。」
 チーンと音を立てて鼻をかみながら、不貞腐れたように俯き、言葉を紡ぐ彼女が、いつもより小さく見えた。そんな彼女を見て、本当に結城君のことが大好きなんだなぁ、と改めて思う。
泣き続ける未央にそっと寄り添い、背中をゆっくりとさすりながら、話に耳を傾ける。辛いことや悲しいことがあった時、こうしてそばにいてくれるだけで心が落ち着くことを私は知っている。昔、私がそうしてもらったように。
 夕方私の家に駆けこんできた親友は、外が暗くなる頃には少し落ち着きを取り戻して、自分の家に帰って行った。
 

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