小説

『鬼の誇りの角隠し』メガロマニア(『桃太郎』)

道端の木陰に腰を下ろし、鬼一は女から貰った握り飯の包みを開いた。
鬼一は幼い頃から肉以外は、ほとんど食べたことが無かった。
とりあえず、一口食べてみる。
最初にしょっぱい味がして、あとは味気ないと思ったが、米を噛んでいるうちに、ほのかな甘さがした。
米というのも、うまいものだな。
そうか、人間たちは畑でこれを作っていたのだな。
人間たちは自分たちで食い物を作るのだな。
僕も作れるかな。
作れたら、人間や動物を食べなくても済むのかな。
握り飯を食べる。
父さん、母さん、桃太郎の匂いがしないよ。
兄さん、姉さん、桃太郎が見つからないよ。
仇討ち、諦めてもいいかな。
僕、案外人間が嫌いじゃないよ。
鬼一は握り飯を少し残した。
鬼ヶ島に帰って、この握り飯を畑に蒔いて米を作ろうと思ったのだ。
そうして、海へと向かい歩き出した。

鬼一が乗ってきた船はまだそこにあった。
砂浜に打ち上げられた船を押し、海へと運ぶ。
空はこの島に来た時とは違い青々としていた。
空に浮かぶ白い雲がやわらかそうで、鬼一の気持ちをのんびりさせた。
帰ろう。鬼ヶ島に。
船が海へと浮かんだとき、岩場の方から声がした。
「やあ、少年」
鬼一が声のする方へ振り返ると、袈裟を着た坊さんがいた。
鬼一がこの島へと着いたときに会った坊さんだ。
「お坊さん、笠をありがとう。役に立ったよ」
 

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