小説

『三人の鶴』片瀬智子(『鶴の恩返し』)

ツギクルバナー

 関東全域の交通機関を麻痺させたこの大雪の中、カフェ・フルールは奇跡的に開いていた。駅から五分の小ぢんまりとした、イギリス風インテリアの喫茶店だ。小花柄の壁にアンティーク家具を配置した本格的アフタヌーンティーを堪能出来る場所である。
 今からここに現れるのは、現在三十代半ばの女たち。一人目の女は秘書、二人目の女はコーヒーショップでバリスタを、そして四人の子持ちである三人目の女。三人は待ち合わせをしていた。
 ここからは秘書とバリスタ、後から登場する子持ちの彼女のことをママと呼ばせてもらうことにする。

 カフェ・フルールに一番早く到着したのは、秘書だった。歩いて二十分で来ることが出来たが、ロングダウンのフードから覗く前髪は無残にも顔に貼り付き、海から這い上がってきたような状態だった。
 バリスタも同じく、少し遅れて到着したときには雪まみれ。しかも何度か転んだらしく、上質なウールコートの腰辺りは泥で汚れていた。
「こんな落ち武者みたいな姿でアフタヌーンティーするなんて、優雅よね」
 バリスタの口の悪さは健在だ。秘書は一足早く体勢を整え、化粧直し仕立ての余裕な笑みを見せる。そして、ママからあと三十分はかかると連絡があったと告げた。
「とりあえず、飲み物だけ先に頼みましょうよ。身体が冷え切ってるもの」
 バリスタがコートの汚れを必死におしぼりで拭いてる間、秘書がメニューを凝視しながら呟いた。
 熱い紅茶はすぐに運ばれてきた。美味しく飲むためには、これから少し蒸らさなくてはいけない。
「私たちは二年ぶりくらいかしら。三人揃って会うのは高校生以来だけど。仕事ばかりで、変わりないんでしょ?」
 秘書が何気にひどいことを言う。いつもならバリスタは返す言葉がないのだが、今回ばかりは違った。この場で発表することがある。 ストレートのダージリン、琥珀色の香りが鼻をくすぐった。
 

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