小説

『マンモスだったお母さんと魔法使いになりたかったお父さんと小学生のあたしの幸せな時間』山本プーリー(『花咲かじいさん』)

 しばらく歩いては草を食べ、川の水を飲んだ。うんこもいっぱい出た。また歩いて、暗くなった。人間はいない。このあたりは安全なんだろうか。
 次の日も人間の姿は見かけなかった。そして、次の日も同じだった。
 こうして、時間が進んでいった。何日くらいたったの? 何か月過ぎたんだろう。
 お母さんのこともお父さんのことも夢の世界のよう。もしかしたら、あたしはもともとマンモスの子どもとして生まれていたのかも。人間だと思っていたのは、頭の中でこしらえた幻だったのかもしれない。親とはぐれて暮らす一匹の少女マンモス。こうして、だんだん大人になっていくんだろうか。
 季節が移って、空から雪が落ちてくるようになった。積もった雪をかきわけて、食べ物を探した。体は厚い毛で覆われているから寒くはないけれど、鼻で雪をほじくって、植物をあさるのは楽じゃなかった。
 ある日のこと。雪の中で目をつむって、じっとしていたんだよ。何か考え事をしていたんだと思う。「キャッ、キャッ」という声が聞こえたので、目を開けた。人間だ! 男の子と女の子。兄妹かもしれない。あたしの牙につかまって、体をゆすっている。まるで鉄棒遊びか何かのように。体を振って、雪の中にとびおりる。それを繰り返す。牙の鉄棒に飽きると、あたしの四本の足の間で鬼ごっこを始めた。雪をはねちらかして、笑いあっている。あたしもいっしょに遊びたいな。そう思って、体を動かそうとした時だった。大人の男の人の声がした。子どもたちははじかれたように、声のする方に走っていった。また、ヤリが飛んでくる! 必死で雪をかきわけて逃げた。口から白い息が噴き出す。息を切らして逃げ続けた。仲間に会いたい。マンモスの仲間に。そればかり考えていた。

*        *

 

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