小説

『泥田坊』化野生姜(『泥田坊』『鶴巻田』『継子と鳥』)

だが、今度はその地形の真ん中、中央部分のへこみが先ほどの倍になっていた。いや、その深度は毎秒ごとに増している。
それはソナーの映像が更新されていくたびに深くなっていくようだった。
五百メートル、八百メートル、千メートル…。
信じられなかった。周囲の深さだけは変わらないのに中央の部分だけがまるで栓を抜いたかのように沈んでいく。

一体何が起きているのか…。
私がそう思ったとき、鋭い声が飛んできた。

「金子君、早く、早くソナーを回収するんだ!急げ!」
ふと我に返ると教授が田んぼの中央を見てソナーを指差している
その瞬間、泥臭い匂いをもっときつくしたような臭気が田んぼの水面から漂ってきた。見ると田んぼの中央に気泡が浮かび、泥の内部が蠢いている。私はリモコンを手に取ると、急いで機械を操作した。

低いモーター音をさせながらソナーがゆっくりと動き出す。
それと同時に、モニターから警告音が鳴り響いた。
それはソナーの近くに障害物があるということを示している。
しかし田んぼの周りを最初に調べたときには何も障害になるものは無かったはずだ。

では、一体何が?
そのときだった。

ずぶりっ
何かが柔らかい泥の中に沈む音がした。私が視線を上げると目の前でソナーが半身を沈ませていた。バランスを崩したかのように斜めになったソナーはそのままゆっくりと地に沈み込んでいく。

だが、私は見ていた。ソナーの下部を握る三本の指を。
泥にまみれた三本のかぎ爪のような指を。
 

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