小説

『泥田坊』化野生姜(『泥田坊』『鶴巻田』『継子と鳥』)

教授はそれをちらりと見ると、またモニターに視線を戻した。
「以来、その家には不幸が続き、見かねた家の者が石碑を建てたところ怪異が収まったという話だが、私はこの伝説が怪異ではなく地形上の問題によって成り立っていると思っているのさ。君もそうは思わないかい金子君。」
教授がそういうと、私が操作するソナーから泥中内のスキャンが終わった事を示すモーター音が聞こえてきた。

その音に教授は嬉しそうに手をこすり合わせるとモニターに顔を近づけた。
「ほら、出てくるぞ。これで泥の中がどうなっているか丸わかりだ。」
見ると、超音波の反響によって映し出された映像にはその田んぼの地中内部が映っていた。それは泥の中が緩やかなすり鉢状になっており、中央部にだけ深いへこみがあることを示していた。

「ほうら、見ろ。昔この地域では田を耕すときに牛が田んぼに沈むという現象があったそうだが、これも地形の仕業だったんだな。」
そう言うと、教授は嬉しそうにバシバシと私の背中をはたいた。
「良かった、良かった。これで安心して明日も調査が出来るな。何しろこの田んぼの管理人を説き伏せるのは大変だったからな。呪いがあるとか祟りがあるとか随分と調査するのを渋られていたからなあ。結局私達二人で車内の泊まり込みなら許可するとか言われてさあ、本当にまいっちゃうよ。」

そうして教授が笑っていると、ふいにソナーからモーター音が聞こえ、新しい映像が送られてきていた。教授もそれに気づいたらしい。
そうして教授はじっとモニターを見つめていたが、その顔がどんどん青ざめていくのを私は見逃さなかった。

モニターには、先ほどのすり鉢状の地形が映っていた。
 

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