小説

『The Wolf Who Cried 2020』田仲とも(『狼少年』)

「お前もナレッジか? 俺もだ。俺なんてチェ・ゲバラとジャンヌ・ダルクについてだったぞ。お偉方の考えることはよく分からんな。アンドロイドに人間の英雄の情報を組み込んで何になるってんだ?」
 要件書にほとんど目を通さない先輩だけでなく、僕らは皆、己が開発しているプラグインの全体像を知らない。一人一人は細分化された一部の機能部品を作るだけだからだ。それが組み合わさって、最終的にどういった新機能が人形達に付加されているのかまでは教えられていない。
 ところで僕が夏モデルで作った機能は、二人のようなナレッジ機能ではなかった。皮膚感覚の機能を駆使し、生きている犬と死んでしまった犬とをより明確に判別できるようにするという、これまた意味のわからない機能だった。先のナレッジとあわせ、一体どんなプラグインになるのか見当もつなかない。
「じゃあ、今回の冬モデルのプラグインで、逆に狼の誤報が直ったりしてな?」
「それ、いいですね! あっ、でも、そうなると……夏モデルにバグがあったために誤報を繰り返してたことになっちゃいますね。まあ全国で機能部品を作ってますから、まさかうちみたいな小さな会社のバグが原因だなんて可能性は低いと思いますけど」
「確かにうちの部品のせいだったら大惨事だな。まあそうであったとしても、叩かれるのは社長か課長だろ? 俺らには関係ないさ。そもそも政府が作った設計書自体が間違ってたのかもしれねえしな」
 人形向けのプラグインは、半期に一度、夏と冬の頻度でリリースされる。この国のシステム開発会社の大半が、今ではそのための機能部品開発に従事していた。僕ら程度の会社となると、仕事の九九%がそれの開発だ。
 

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