小説

『The Wolf Who Cried 2020』田仲とも(『狼少年』)

「あーあ、しっかし本当にうるせえな。これじゃあ次のロジックを考えられねえよ」
 狼が鳴き止まない。先輩が再び僕の気持ちを代弁してくれる。警報が鳴り出して一〇分強、僕の知る限りで過去最長だった。
「明日のトップ記事、これで決まりだな」
「いつものごとく政府へのバッシングは凄いでしょうね」
 左右の二人の言う通りだろう。
『狼、深夜の遠吠え。政府対応に進展なし』
さしずめ見出しはこんなところか。深夜二時に、この騒ぎだ。おそらく少なくない人間が安眠妨害として政府を訴えるだろう。睡眠障害が発生したとして慰謝料を求める者も出るに違いない。僕らの会社にしても、このまま納期遅延に至った場合、業務妨害で賠償金を請求するかもしれない。
「……それにしても狼のメンテナンスって、どこの会社が受け持ってるんでしょうね?」
 その疑問は僕の頭にも常にあった。WOLFにシステム障害が発生しはじめて早三ヶ月。未だに問題が解決できていないのは解せない。一体どういう会社が対応にあたっているのだろうか。
 同業に従事する僕の感覚からすれば、これほどの重大障害であれば、即日対応を求められて然るべきだ。政府直轄としか情報開示されていないけれど、この対応の遅さ、とてもまともな会社であるとは思えない。
「あーあ、うるせえな! ったく、能なしの人形どもめ。ちゃんと働けってんだ!」
 先輩が三度、吠えた。怒りの矛先は自然と人形達に向いている。それもそのはず。政府は狼の修復作業に大量のアンドロイドを投入している。それでもこの有様で、しかもそれが僕らの激務の原因でもあるから尚更だ。
「アイツら、ちゃんと仕事しているんですかね?」
 

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