小説

『ねむねむハクション』みなみまこと(『三枚のお札』)

 奴らは前歯を噛みあわせニタニタ笑いながら迫ってきた。
 理美は、ピンク色の光に包まれた体で、鼻から「Z」マークを次々に出しながらスヤスヤと眠っている。
「理美、起きろ!」
 祥平は理美の肩をゆすって起こそうとするが、目が半開きで、「あ、あ、あさー……?」と寝ぼけ顔だ。
「理美、逃げるぞ!」
 祥平は、理美をキノコからおろすと手を引いて走ろうとする。しかし、理美の足取りははふらふらとおぼつか無い。
 海賊モドキどもは、「美味しそうな子供がいるぞ! 逃がすな」と叫んで、突進してくる。
 しかし、よく見ると、海賊モドキは、上半身だけは逞しいが下半身は子供のようにか細く短い足がついている。全力で追ってくるのが解るが、走る速度は大人の上半身が付いている分、子供より遅いみたいだ。
 それでも、背丈くらいの半月刀をきらめかせながら迫ってくる魔物の類には違いない。
 祥平は、理美の手を引きいて逃げるのだが、理美も寝ぼけ顔でついてくるのがやっとのようだ。
「急いで! 急いで!」
 祥平は焦って叫ぶが、その声は理美には届かないようで、半分寝ながらついてくる。りじりと差が縮まってきた。
 路地を抜け、大通りにでると六車線を車の列が行き来している。まるで大河の流れのようだ。
幸いなことに横断歩道の信号が青であった。祥平は理美をせかしながら、車道を渡り切り振り返えると、海賊モドキどもも、横断歩道を渡ろうとしていた。
 その時、祥平の内ポケットから、名刺が赤く光りながら飛び出し、空中ではじけた。
 横断歩道の信号は、点滅もせずにいきなり赤になり、車道側は青になった。一斉に車の群れが雨の後の大河の濁流のように流れ出した。海賊もどきたちは横断歩道を渡ることが出来ず、奇声をあげながら刀を振り回している。
「ショウゴ……俺たちを守ってくれるのか」
 祥平は額の汗を拭いながら、つぶやいた。
 理美は、信号機の柱にもたれて、頭の天辺からシャボン玉を出しながら、うとうとと眠っている。
「ざまあ見ろ! 追ってはこれまい」
 祥平は、海賊もどきたちにあかんべぇをしてやった。
 海賊モドキたちは信号機の柱になにやら貼り付けている。
 信号が変わった。
 

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