小説

『ねむねむハクション』みなみまこと(『三枚のお札』)

ツギクルバナー

 祥平は、目覚ましのアラーム音で目を覚ました。
 六畳のアパートの部屋に、カーテンの隙間から朝日が差し込んでいた。
 横を見ると、隣の布団に寝ていたはずの妹がいなかった。
 部屋の中を見渡す。少し散らかった部屋に小さなテレビ、もう四月なのにまだ三月のカレンダー、そして隅に転がっている旅行鞄。
昨日、田舎から出てきた妹が持ってきた鞄だ。
「理美……ここでもか……」
 祥平は、手のひらで顔を覆いながら舌打ちした。妹の理美には、夢遊病の気があって、夜中にフラフラと外を徘徊することがある。
 祥平と理美は、両親に死に別れ、二人っきりで生きてた。祥平の仕事が軌道に乗ったので、親戚に預けておいた幼い妹を東京へ呼んでいっしょに暮らそうとした矢先だった。
 祥平は、理美が寝ていた布団に手をやると、かすかにぬくもりを感じた。
パジャマのまま出て行ったのだろうか。風邪を引いたらたいへんだ。あいつのくしゃみといったら……。いいや、そんなことはどうでも良い。地方都市ならいざ知らず、ここは大都会、東京、新宿の一画だ。一歩外に出れば、魑魅魍魎が闊歩する恐ろしい場所なのだ。理美のような小学生の女の子が寝ぼけて一人で歩いていたら、魔物どもの餌食になってしまう。特に歌舞伎町と呼ばれる繁華街では、子供の腹を裂き、はらわたをうどんのようにすする輩が出現すると聞いていた。
 一刻も早く理美を連れ戻さなければと祥平は拳を握りしめた。
 祥平は、スーツに着替え、お守り代わりの三枚の名刺を見つめ言った。
「ゲンタ、ショウゴ、タケシ、理美を守ってくれ」
 ゲンタ、ショウゴ、タケシの三人は、祥平の旧友だ。幼い頃から古里でいっしょに遊んだ親友たちだ。一年前、東京へ出てくるときに、それぞれの就職先の真新しい名刺を交換したのだ。どこかで、親友たちがも一生懸命働いている。そう思うと、どんな仕事でもやりとげられた。だから、いつもお守りのように身に着けている。
「ここまで頑張ってこられたのも、こいつらのおかげだな」
 祥平は心の中でつぶやいた。 
 

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