小説

『花咲く人生』ものとあお(『花咲かじいさん』)

 夕方の散歩で小学校の前を通ると自然と子供たちが「犬のおじちゃんとおばちゃん」と呼ぶようになった。途中まで一緒に帰る子もいる。直也はクラブ活動があり会えることは少なかったが、咲也、美央、瞬はいつもグラウンド横にある桜の木の下で待っていた。
ある日、美央の元気がなかったので健一が尋ねると姉から誕生日にもらったブレスレットをなくしてしまったのだという。学校でつけているのを見つかったら没収されてしまうので制服のポケットに入れおき、帰りに健一と紗代子に見せようと思っていたらしい。健一はなんとか探してやりたいと思ったが、どこで落としたのか分からないブレスレットを探すのは難しい。その時、シロが健一をぐいっと引っ張った。思わず前に一歩出ると、そのままシロにどんどん引っ張られていく。
「シロ、どうした。ちょっと待ってくれ。」
あまりの引きによろめきながらもついていくと、校門前にある花壇で止まった。
「ワンワン」
前足で花壇を掘るような仕草をみせたのでそこを覗くと、星が連なったブレスレットが落ちていた。
「あった!」
美央が驚いた声を出す。
「そういえばさっきここでサルビアの蜜吸った・・・。」
「花壇の花は雑菌もいるし、サルビアは毒があるから蜜は吸うなって先生が言ったばかりなのに。」
瞬に咎められると美央は少しバツの悪そうな顔をした。
「ちょっとだけなら大丈夫よ。お姉ちゃんもよく吸っていたって言っていたもん。それにしてもシロすごい!よく分かったね。」
わしわしと撫でると、シロはパタパタと尻尾を振った。
 シロが無くしものを見つけたのはこれだけではなかった。その後も瞬が大事にしていた野球ボールや、恵子が娘からプレゼントにもらった時計、近所に住む新婚夫婦の指輪までも見つけた。どれもシロは見たことがないにも関わらず、見つからなくて困っているというと、ぐいぐい引っ張っていき見つけると前足で掘る仕草をする。少し不思議な犬だった。
 

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