小説

『花咲く人生』ものとあお(『花咲かじいさん』)

 時計の針が十四時をまわり、紗代子が帰ってきた。
「庭の草むしりしてくれたのね。有難う。すごく綺麗になっているわ。お昼は何を食べたの?」
「野菜たっぷりの焼きそばにしたよ。」
「あなたの作る焼きそば美味しいものね。私も食べたかったわ。そうそう、恵子さんからチーズケーキ頂いたの。食べるならコーヒー淹れますよ。」
「いいね。頂こうかな。」
 恵子は料理全般得意だが、特にお菓子作りがうまい。近所の主婦を集めて時折料理教室も開いている。紗代子が持って帰る手土産が健一の密かな楽しみでもあった。
頂きますと手を合わせ、一口食べるとレモンの風味が口いっぱいに広がった。
「レモンのチーズケーキかい?」
「ええ。さっぱりとして美味しいでしょう?恵子さんの家に遊びに行くと食べ過ぎてしまっていけないわ。今日のお散歩は長めにお願いしますね。」
「ははは。分かったよ。久しぶりの晴れだ。今日は小学校周りのコースにしよう。」
 日課の散歩で小学校周りを選んだのは、時期ではないけれど小学校の桜の木が見たくなったからだ。
 コーヒーを飲み終わり、お腹も満たされ健一はうつらうつらしながら心地よい夢と現実の狭間で揺れていた。
「あなた、そろそろ散歩の時間ですよ。」
 紗代子に呼びかけられ、ぼうっとした目で時計を見ると、十六時を回っていた。
「ついつい寝てしまった。顔を洗ってくるよ。先に出ていてくれ。」
 冷水で顔を洗い、外に出ると紗代子が準備運動をして待っていてくれた。
 家から学校までの道のりには畑が多い。どの畑も午前中は除草作業があったのか綺麗に雑草がよけられている。
 小学校の近くまで来ると、小学生がグループになって帰っていた。さようならと挨拶する子供達に返しながら、グラウンド横にある桜並木に向かった。そこには数人の子供が木の下で寝そべりながら話をしていた。
 

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