小説

『おバカの王様』美土すみれ(『はだかの王様』)

 そして、パレードの日。もちろん、王様は見えない服を着ています。
「どうせ、誰にも見えないのはわかっているからさ、この日に備えて、かなりからだを絞り込んだのよ」そう言って鏡の前でくるっと回った王様のからだは、それはそれは立派でした。
 王様はきらびやかな天蓋の下、パンツ一丁で、どうどうと行進していました。人々は通りや窓から王様を見ていて、大人も子どももみんなこんなふうに叫んでいました。
「王様、はだかだよ!」
「はだかの王様だ!」
「いや、バカの王様だよ!」
 まあ、だいだい予想していた反応だったので、王様は、さして動揺することもなく歩き続けましたが、一つだけ不満がありました。
「バカでもいちおう王様なんだからさ、尊敬語使おうよ。せめて、おバカって言ってよ」

 その後、王様は精力的に公務をこなし、国はますます活気に満ちていました。もう王様は、バカの王様ではありません。が、あのパレードのインパクトがあまりにも強かったために、国民からは後々まで、親しみをこめて「おバカの王様」と呼ばれましたとさ。
 

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