小説

『おバカの王様』美土すみれ(『はだかの王様』)

「はい、が、がんばってイクメンを目指してみます」役人は、これまたびっくりしながらそう言いました。王様から「法律」なんていう言葉を聞いたのは、生まれて初めてだったからです。
「いやあ、それにしても、お前でも見えなかったなんて、どんだけ高いレベル求めてんのよ、その布」
「正直申し上げて、国民の中に見ることの出来るものが果たしているのかどうか、というレベルですね」
 王様は内心ヒヤリとしました。

 さて、それから何か月たっても、いっこうに布は完成しませんでした。王様はいてもたってもいられなくなって、前に布を見に行った二人を連れて、詐欺師の仕事場に向かいました。
 そこでは、詐欺師たちが懸命に働いているふりをしていました。
「ようこそ王様。さあどうです、王様にぴったりな、たいそう立派な布でしょう?」
「やはり私には見えません」大臣が、恥ずかしそうに王様に向かって言いました。
「あっ、ごめん。人事異動もうちょっと待ってね」そう言いながら、王様は役人の方を見ました。
「どう?」
「私にも見えません。おしっこのオムツは替えられますが、まだ大きい方はどうも……」イクメンを目指し始めた役人は、ちょっと気まずそうに言いました。
「残念ながら、私たち二人にはこの布を見ることは出来ませんでした。ですから王様、この布がどんなに素晴らしい布であるのか、私たちに教えて下さいませ」
 王様は、しばらく考えました。そして、からっぽのはた織り機をじっと見つめながら言いました。
 

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