小説

『クレームまんだら』鶴祥一郎(『耳なし芳一』)

「それじゃあ頑張って、これを先に片付けちゃいましょうか」
「そんなに慌てなくてもいいだろ?さすがに、今シーズンより大幅に増えるってことはないだろうし」
「……大山さん、もしかしてまだ、メール見てないんですか?」
「うん」
「増えてるんですよ、大幅に」
「え?また増えてんの?」
 私は慌てて営業部からのメールを開いた。確かに『使用上の注意』は大幅に増えている。
「来シーズンも盛りだくさんですよね」
「うん。じゃあ、また作り直しか……」
 こうして休憩はすぐに終了。私たちは、ビーチボールの定番デザイン上に、最新版『使用上の注意』をレイアウトしはじめた。
 今シーズンの『使用上の注意』だって、ビーチボールの表面積の六分の一を占めていた。できれば、これ以上の面積を使いたくない。となると、実に面倒ではあるが、フォントを小さくして、段組も工夫しなければならない。
 しかし、こんな作業にやる気など出ない私は、休憩の再開を加藤に打診してみる。
「まったく、いつからだよ?『使用上の注意』を毎年作り直さなくちゃいけなくなったのは?」
すると、加藤は素早く食いついてきた。
「え?知らないんですか?ちょっと、しっかりしてくださいよ。新しい法律ができてからに決まってるじゃないですか」
 

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