小説

『子豚の正しい作られ方』馬場万番(『三匹の子ぶた』)

 家を追い出された手前親にも頼れない、相談できる友人もいない。頼れるのはグーグル先生だけだった。料金滞納でインターネットが止まる前に生き残る方法を検索しなくてはいけない。贅沢な生活は望まない。社畜にならなくて、人と関わらなくて、毎日アニメが見れればそれでいい。そんな生活を送る方法はないんだろうか! 教えてください。グーグル先生!
「働かないで暮らす方法」で検索したところ、その答えはあっけなく見つかった。生活保護である。自分の条件であれば、働かなくても毎月15万円弱は貰えそうだ。今のアパートは十分家賃が安い。食費は少し抑えよう。おやつも週に5回にしよう。人に合わないのだから、服なんて買う必要はない。風呂だって、週に1回入ればいい。これで、10万円以上は好きに使えそうだ。これだけ好きに使える金があるんだ。ブルーレイBOXもフィギュアも買える。イベントにも月に1回は参加できるぞ。そう。働かないで!
善は急げだ。生活保護の申請に必要な手順をメモ帳に書き出し、区役所に向かった。担当窓口で申請書を出す。これで、僕の生活は保護された。安堵して待合の椅子に腰を掛けていると、しかめっ面をした職員が声をかけてきた。
「三木さん。生活保護の相談でしたね」
 相談という言葉に引っかかったものの、信孝は頷いた。職員に個室へ案内されると、若いから働けるはず。両親と一緒に住む選択肢もあると説得をされた。グーグル先生が教えてくれたのとは違う展開だった。もっと簡単に生活が保護されるって書いてあったのに、この流れだと僕の生活は保護されないぞ。信孝は以前の職場でパワハラを受けたこと、鬱病のため療養が必要であること。親は定年退職したことを説明したが、職員は頑として「働くべき」と主張するだけだった。
 信孝は広告営業を5年間勤めてきた。厳しいクライアントもいたし、上司に叱られたことも沢山あった。そこで養われた営業マンとしてのスキルやガッツを発揮すれば、目の前の職員を説き伏せることもできたかもしれない。しかし、ただなんとなく5年間会社にいただけの信孝にはスキルもガッツも養われていなかった。遂には黙りこみ、頬を膨らませて区役所を立ち去った。
「これじゃ、僕の生活が保護されないじゃないか。あんな、一職員ごときに僕の生活を邪魔する権利なんてないんだぞ!」
 

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