小説

『一寸法師』小椋青(『一寸法師』)

それが大きくなってみると、犬や猫は従順でおとなしい生き物になってしまった。頭をなでてやるとすり寄ってくる。餌をやればこちらの顔を忘れる事もなく、常に歓迎された。大きさが違うと、こんなにも相手の出方は違うものなのだ。草や木も、虫も、これまで見ていたよりずっと小さく、壊れやすいものになった。子供だってそうだ。あんなに力が強いと思っていたのに、今ではこちらがちょっと力をこめようものなら傷つけてしまう。最初は、自分がとんでもなく破壊的なものになったような気がして、戸惑った。以前の感覚で木に登ろうとして、枝を折ってしまったこともたびたびある。家の中にある物を扱う時などにも加減を間違えることがある。引き出しや戸の開け閉めも苦手で、最初は何度か力を入れすぎて壊した。それを見ると周りの者は困った様子になる。なるべく色んなものを壊さないよう気をつけていると、体をあまり動かさなくなり、動作もゆっくりになった。同僚には陰でのっそりと呼ばれているが、仕方ないという気がしている。
 苦痛なのは、もはや人々が自分にあまり関心を持たなくなってしまったことだ。両親も周りの人も、昔はちょっとしたことができるだけでほめてくれたり、かわいがってくれたりした。小さいというだけで皆が親切だったし、できないことがあっても大目に見てくれた。女たちも自分に寛容だった。いつまでも女湯に入っても何も言われなかった。体に触れることも許してくれた。くすぐったいと言って笑う女たちの乳の間でうっとりとしていることすらできた。
 それなのに、今はどうだろう。両親は変わらず息子として大事には思ってくれるが、最近はあれをやってくれ、これをやってくれということが多くなった。そして、殿様にはちゃんとお仕えしているのか、出世はどうなる、子供はまだか、などとうるさく言う。ほめてくれることはない。むしろ、人並みにできないことがあるとうるさく心配をするようになった。それがおっくうで、両親のもとにはこのところ足が遠のいている。
 女たちは以前のように気を許してはくれないし、男たちも親切ではない。体も大きく、鬼退治の手柄もたてたとあっては、さぞ優秀な人物であろうと思われる。できないことがあると、なぜできないかと問われる。そう言われても、どうにもならない。小さい自分は剣の扱いも立派なものだと思っていたが、いざ剣道、武芸となるとうまくない。刀の重さが違うし、相手が人間であるというところも違う。これまで、たいていは自分より大きいものを相手にしてきたから、つい感覚がずれる。そうすると、とんでもないところに剣を振ってしまう。修練はしているが、なかなか矯正できない。自分が剣を持つと、周りから失笑がもれる。それを背にしながら、修練に励む。とうてい面白くない。
 

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