小説

『輪廻』沢田萌(『源氏物語』)

 無数の精子がたった一つの卵子に向かって泳ぎ、最後は卵子と出会って受精するシーンは神秘的で不思議だった。でも、どうやって子宮に精子が入るのか、具体的な子どものつくり方を先生は教えてくれなかったので疑問が残った。
 放課後、私のように疑問を持った女子、四人が体育館の裏に集まった。
 クラスで最初に生理なって、ブラジャーも最初だった昌代が、
 「あなた達の疑問に答えてあげる」と言ったからだ。
 昌代は大人びた顔をして、
 「偉そうな事を言ってるけどさ、学校の先生も親だって大人は皆、こんなイヤラシイ事やってるんだよ」と言った。
 あちこちで頓狂な声が上がった。私はその場にいた誰よりも大きい声を上げた。
 全身を雷に打たれたような衝撃だった。
 それからというもの田村と母の夜の営みを想像しては、嫉妬と嫌悪感が入り混じった複雑な感情に苛まれるようになった。クラスの女子は同年代の男の子やアイドルに熱を上げているのに、義理の父に思いを寄せる自分は、かなりヤバイと思ったが田村への思いは心の奥底でクラクラと燃え続け、その気持ちはどうすることもできなかった。それに私は家の中で孤独だった。
 嵐の夜は寂しさで死にそうになった。
 ヒューヒューと吹く風は悪魔の口笛に聞こえ、風に吹かれる木々はギシギシと悲鳴をあげているみたいだった。私はすっぽりと布団の中にもぐり込む。
 「お母さん、今夜は一緒に寝てもいいでしょう」と夫婦の寝室に行きたい気持ちをグッと我慢する。涙が後から後から流れて、地の果てに置き去りにされたような気持ちになった。私は暗くて息苦しい布団の中で「早く朝が来ますように……」と祈った。

  
 
 バラを見ると母の入院や祖母の庭を思い出す。
 祖母は広い庭がある洋館に一人で住んでいた。母が入院している間、私は祖母の屋敷に預けられた。庭師によって手入れが行き届いた庭園には様々な花が植えられていた。花の妖精が出てきそうな祖母の庭は、母と離れて暮らす寂しさを紛らわせてくれた。
 朝の庭園を散歩するのが祖母と私の日課だった。
 

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