小説

『罪深い作家たち』楠本龍一(『不思議の国のアリス』)

「正確には、当国を貶めることなく正当な記述と描写を用いるかどうかを調べる。我が国の全国民にとって重要懸案なのでね」
「『我が国』って、おかしいわ。私が書こうとしたのは『アリス』についてよ。あなたの国のことなんてこれっぽっちも書こうとなんてしていないもの。私を呼んだのは間違いだったようね。今すぐ帰りの道を教えてちょうだい」
「アリス」
白づくめはさぞ嘆かわしいという表情をして目を閉じて呟き、首を横に振った。
「正式な招待もなく当国に足を踏み入れた最初の人間だ」
そう言うとノートパソコンを再び叩き、画面をこちら側に向ける。
「そして私のキャリアに終止符を打った少女」
そこには白黒写真が表示されている。小さい女の子が立っているのは、
「これ、この部屋じゃない」
「そうとも。アリスはよりにもよって外交帰りのこの私についてホールを経由してこの部屋に侵入した」
「じゃあ、この子がアリス? ということはここが不思議の国だって言うの? あなた本気? ちょっとイカレてない? 」
「それだけじゃない。アリスはさらにこの部屋を脱出し、当国において歴史的な事件の数々を引き起こした上に、紅茶狂いの、かつての私の任国に戻った後に、知人の男に当国での体験を書き取らせて記録、出版までしてしまった」
白づくめは芝居がかった仕草で天井を仰ぎ右手で目を覆った。
「なんたる不運! 我が国の存在が他国の一般人に知れ渡ってしまった。それ以来、当国に不当な付け加えを伴う小説、映画、ありとあらゆる物語を作ろうという輩が海千山千と現れたのだ」
白づくめが大きなため息をつくと、息が黒いススに変わって部屋に広がったので、部屋が一層薄暗くなった。
 

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