小説

『琵琶のゆくえ』森江蘭(『耳なし芳一』)

 また一つ、物語とともに私は琵琶を棚に収めた。
 さて、そろそろ店じまいと思ったその時、がらがらと引き戸を引く音がする。
「これを預かっていただけぬか。」
 現れたのは、またもや僧形の男だった。夕闇迫る店内に、墨染めの衣に身を包んだ体躯が溶け込んでゆく。男のがっしりした体つきを見るとどうやら、もともと武人であったようだ。手には細長い錦の包みを持っている。それは一見したところ、笛のようである。
 今日は楽器の預かりが続く。しかも僧形の男からとは。こんな日もあるものだ。
「いらっしゃいませ。あなたの物語を聞かせていただけますか。」

 

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