小説

『コウモリ女』田中りさこ(『卑怯なコウモリ』)

ツギクルバナー

 店に入ってきた夏を見て、ナナが席から飛び跳ねるように立ち上がった。
「久しぶり!」
 グレーのパンツスーツを着た夏は、そんなナナを見て、苦笑した。
「久しぶりって、三日振りでしょ」
「やぁだ。同級会は三日前だけど、その前は、七、八年振りじゃない? 本当、夏は話が通じないよ、ね、まこと?」
 二人のやりとりを黙って聞いていたまことは、急に自分に話題が来て、「え?」と聞き返した。
「もう、まこと聞いてた?」
「まあまあ、まこは、昔っからそうだったじゃない。人の話ちゃんと聞いてない」
 ナナ、夏、まことの三人は、中学校の同級生だ。それぞれ別の高校に進学し、会うのが年に数回になり、大学進学を気に自然と会わなくなった。
 十年ぶりの同窓会で再会し、話の花が咲き、話し足りないと今日の集まりにいたったわけだ。
 まことが言った。
「お夏はどうしてるの?」
「うわ、お夏とか懐かしい。なっちんとかサマリンだっけ」
 ナナの言葉に応えるように、夏とまことが同時に言った。
「みかん!」
「あったあった! 夏みかんからのー」
「みかん」
「もはや、夏の原型ないしー」
 三人の笑い声が店に響いた。
「話それすぎ。私は銀行の営業。保険、投資信託の相談は、どうぞ私、笹山 夏まで」
 夏が軽く頭を下げた。
「そっか。お夏は、銀行で営業やっているんだったね」
 まことに続いて、ナナが言った。
「すごぉいよ。私も、夏の銀行にお世話になってるよ。子供の積み立てとかぁ」
「ありがとう。あれ? ナナ、子供いくつ?」
「四歳と二歳。これでも二児の母なのだ!」
 ナナがピースサインを作る。
「見えない。一番先にお母さんになるの、まこだと思ってた」
 夏の言葉に、まことは顔の前で手を振った。
 

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