小説

『ネコソーゾクの兄弟』楠本龍一(『長靴を履いた猫』)

「おおー桜が咲いてるよ」特急をやめ、敢えて選んだ長距離の鈍行列車が山間を走る中、ボードリヤールが線路脇の桜に反応し車窓を開けた。
「おい、そんなに興奮して頭から落っこちるなよ」
「ブーツが重りになってるから大丈夫だっての」
開け放たれた窓から流れ込んだ春の風が、ひんやりとボードリヤールの髭を揺らし、俺の頬を撫でた。

 

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