小説

『私の頭の上の話』坂本和佳(『鼻』芥川龍之介/古典落語『頭山』)

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「では本番行きます。321アクション!!」
 それから数か月後、坂本は映画の撮影スタジオにいた。
沢海のために書いた脚本「私の頭の上の話」は上演と共に思わぬ反響を呼び、公演は大ヒットを記録。その余波に乗って映画化されることとなったのだ。
 映画用の脚本を改めて担当した坂本は監督の招きで撮影現場に見学に訪れていた。彼女は彼女役の女優が演技する姿を楽しそうにながめていた。特にその女性がCGの合成用に自分と同じように大きな緑色の帽子を被っているがたまらなくおかしかった。

「ハイカット!!お疲れ様です」
 掛け声と共にその日の撮影が終わり、俳優とスタッフが撤収を始めた。スタジオの片隅にいた坂本の元に映画監督がやってきた。坂本は彼に会釈した。
「お疲れ様です」
「今日で撮影は終了なんですよ」
「え、そうなんですか?」
「ええ、この後打ち上げがあって。出席して頂けます?」
「ええもちろん!!いろいろとお疲れ様でした」
「いえ、明日からはポスプロが始まりますからね。CGを組み込んだりするんですよ」
「CGってもしかしてあの緑の帽子のところに」
「ええ」
 それを聞いた坂本はなぜだかとても愉快な気分になった。
「いい作品になりそうですね」
「ええ。ラッシュ(※撮影した編集前の映像)を見たんですが中々の傑作ですよ。プロデューサーが映画祭に出そうって意気込んでるんですが、結構いい線まで行くかもしれません」
「いい線どころか大物が狙えますよ」
 そう言って坂本は帽子を取った。彼女の頭の上ではアカデミー賞の授賞式が現れていた。それを嬉しそうに見る監督の姿を見て、坂本は満面の笑みを浮かべた。

 

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