小説

『ユニフォーム』山本康仁(『笠地蔵』)

 収拾をつけるように、わたしはやや大きな声でみんなに聞く。八着でも赤字なのだ。無理して九着にすることもないだろう。
キャプテンの子が「うん」と頷く。それからわたしはみんなの名前と身長、キャプテンの子の名前と電話番号を書きとめた。
「明日にはできますか」
 袋を鞄に戻しながら、お金を払った子が聞く。
「明日は無理だなぁ」
 わたしはレジの後ろに掛かるカレンダーを見つめた。明日には注文するとして、二週間ほどはかかるだろうか。
「再来週の月曜日にもう一度来てくれる?」
 わたしはカレンダーのその日を指す。二週間先は見た目には随分と長い。がっかりする気持ちをあからさまに顔に表しながら、でも最後は元気にお礼を言って、子どもたちは勢いよくお店から出て行った。

 ブルーバードがどんなユニフォームを着ているのか結局分からなかった。しかしどのみちそれを真似るのは難しそうだった。シャツとパンツ、それにキャップの三点セット。作るコストを抑えようとすれば、デザインは白地に何か単色の文字を入れるのが精いっぱいだった。わたしは最初自分がイメージした通りのユニフォームで仕上げていく。
 文句は出ないだろう。赤い文字で「MOMOTA」というチーム名をリクエストし、カートに入れると、関連商品としてリストバンドや応援グッズ、スパイクなどが紹介される。全て揃えてあげたい気もしたが、さすがにそれは個人商店の力では無理だ。そのまま注文のボタンを押して、わたしは店内のもので何かできないか考えてみる。
 お店の棚の上を見渡すと、蛍光灯の上に掛かる、住人のいなくなったクモのハンモックが目についた。父がいたら怒られていただろう。野球に関する興味は父からの刷り込みだった。一人っ子だったわたしに父は、自分の野球熱を一心に注いだ。物心ついた頃には、わたしはお店の前で父とキャッチボールをしていた。商店街の名物親子だった。
 中学生になり、わたしがテニス部に入ったのは、その光景を同級生に笑われたからだった。小学六年生のときだった。それまで「普通」だったことが、周りから見れば「変」だとわたしは初めて知った。父に騙されていたと思った。父とのキャッチボールも、母のいない家庭であることも。恥ずかしかった。
 レジに立て掛けてあるほうきを取って、蛍光灯の上を大雑把に掃きながら、わたしは店内を歩いて回る。ジョギングブームのときに仕入れた靴。バスケットシューズ、家の中でもできる卓球セット。カラフルなフラフープ。
 

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11