小説

『ユニフォーム』山本康仁(『笠地蔵』)

「何のユニフォームなの?」
 わたしは念のため確認した。
「野球です。野球のユニフォームです」
 何度も聞かれた質問のように、一番前の子がはっきりと答える。
 わたしがお店を継いでから、ユニフォームを発注したことは一度もない。わたしはレジ下の引き出しからカタログを取り出した。野球のページには何となくそれらしきものが載っている。インターネットでも使えば、他にもいろいろ見つかるだろう。
「ユニフォーム、作ってもらえますか」
 もう一度不安そうな声になると、みんなの視線が静かにわたしの言葉を待った。
「いいけど、どんなデザインのものがいいの?」
 ファックスの乗った棚の下から白い紙を取り出すと、「野球用ユニフォーム」と書いてわたしは質問する。山場を越えて安心したのか、白い歯を覗かせる子どもたちは急におしゃべりになった。
「ブルーバードみたいにかっこいいの!」
 後ろに立つ、背の高いぽっちゃりした子が手を上げる。
「ブルーバード?」
 何かアニメのキャラクターだろうか。わたしはその子の顔を見つめる。
「野球チームです、ブルーバード」
 その子は「ねえ」と周りの子に確認する。
「小泉先生、言ってたもん。ブルーバード。最初のチームだって」
 他の子たちも、こくっと頷いた。
ブルーバードなんて野球チーム、わたしは知らなかった。過去のチーム全て知っているわけではないが、日本の現プロ野球チームと、その前身チームの名前くらいは言える。父の集めていたカードの中にも、そんな名前のチームはなかったはずだ。メジャーリーグにでもあるのだろうか。
「じゃあ、『ブルーバード』みたいなデザインだね」
 それもネットで調べればいい。そう思いながら手元の紙に、「ブルーバードみたいなデザイン」と書き加える。ブルーという言葉があるにも関わらず、わたしはその子たちのイメージから、勝手に白地に赤のユニフォームを想像した。
「で、チームの名前は何て言うの?」
 わたしは胸元に入るローマ字を想像しながら質問を続ける。子どもたちが急にそわそわした。「どうする?」と互いに見合う。小声で話し合う様子は、マウンドに集まって相談する選手たちのようだった。
 

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