もしかしたら姿を見せられないだけで、もう近くにいるのかもしれない。そうおもって、陶芸教室に通った後、十円をゆかに置いてみた。そのうちに十円がふわふわと浮きあがって―――なんてことは起こらなかった。
もしかしたら、アメリカンフットボールのワールドチャンピオンに生まれ変わっているのかもしれない。心優しいクオーターバックに。そう思って、アメリカまで会いに行った。何度も亜子さんと呼びかけたが、ただのナイスガイだった。
トウモロコシ畑を買い取って、野球場を造ってみた。ずいぶんと古いジャイアンツのユニホームに背番号14番の選手が現れてピッチャーマウンドで剛腕をふるっていたが、亜子さんは現れなかった。
今頃、オードリー・ヘップバーンに似た天使と殴り合いのケンカでもしているのかもしれない。そんなことを考えていたら少し気が楽になった。
けれど、午前零時のアラームが聞こえるたびにむなしさが押し寄せた。
嘘つき。亜子さんも。映画も。世界中の物語も。全部、全部嘘じゃないか。分かっていたけど。分かっていたけど、ズルいじゃないか。
「浮気したら許さないとか、散々騒いでいたくせに。せめて泣かせてくれたっていいじゃないか」
枕を棚に投げつけた。飾ってあったチョロQが大きな音を立てて落ちた。
チョロ松。
「おそ松、カラ松、いち松、十四松、トド松、あと一人はチョロ松だ」
正しい答え。でも、喜んでくれるひとはもういない。
亜子さんが亡くなって三年目。今、僕の隣には桃の香りのする女の子がいる。
亜子さんが死んでからすぐ開かれた合コンで知り合った子だ。
とくべつ美人ではないけれど、友達に自慢できるほどにふんわりとした可愛さがあり、チョコバナナパフェが好きで、朝見た星占いも、一時間もしないうちに忘れているような、ごくごく普通の女の子だ。
彼女に亜子さんのことを話しても、嫌な顔一つ見せず、辛かったんだねと言って僕のために泣いてくれた。
彼女は新聞を読んでいても、わたしをかまってと我儘を言わないし、テレビを見ていても変な踊りを踊って邪魔したりしない。シングルベットのど真ん中で眠り込んで僕を困らせたりしない。今だって、申し訳なさそうに端っこで丸まっている。
ピピピピピピピ―――。
午前零時のアラーム。