小説

『クリスマスの聖霊たち』和木弘(『クリスマス・キャロル』チャールズ・ディケンズ)

 だが、入社して一年経ち、二年経つうちに、俺は社内のしきたりや先輩たちの仕事のやり方に矛盾を感じるようになっていった。だんだんと意欲も薄れ、仕事も惰性でするだけになっていったのだった。当然上司との折り合いも悪くなっていった。
 続いて映し出されたのは、三〇代も後半の俺の職場での姿だった。課長がいらついた表情で書類を処理している。そんな課長の視線を避けるように、三〇代後半の俺は背中を丸めるようにして机に向かっている。目の輝きは失われ、どんよりと澱んでいる。
 この頃の俺は会社に行くのも苦痛で仕方がなかった。ただ、給料をもらうためだけに会社に行って時間を潰しているようなものだった。
 「随分と新人時代とは顔つきが違っているじゃない」
 おばちゃんの聖霊が話しかけてきた。
 「しょうがないだろう。課長は口を開けば経費の削減だ、効率化だ、って俺に説教ばかりなんだから」
 「中間管理職の哀愁ね。上からは実績を求められ、部下からは反抗されて」
 「哀愁? とんでもない。管理職なんて結局自分がかわいいだけさ。経営会議じゃ捏造した数字を報告して上層部にごまをすって、そのシワ寄せで俺たちがサービス残業させられてたんだからな。やる気がなくなって当然さ」
 「ずいぶん自分勝手な理屈ね」
「勝手なもんか。課長を見ていれば誰だって、ああはなりたくない、って思うね。俺は現場の仕事に専念して、給料をきっちりもらいたかった、ただそれだけさ」
 「それこそ自分本位な言い分だわ。いずれはあんたも管理職になるはずだったのに。自分の将来から目をそむけて逃げていただけでしょ」
 「・・・」
 確かにあの時の俺は逃げていただけかもしれない。自分が管理職となって責任を負うことから・・・
 その後、俺はリストラ同然に会社を辞めることとなったが、タイミング良く次の会社が決まったのだった。
 今度は転職後の俺の姿が映し出された。四〇代も中頃の俺の姿がそこにあった。
 デスクに向かってパソコンの操作をしている四〇代の俺の表情にはまったく覇気がない。
 その会社は社員三〇名程度の規模で、社長との距離も近かった。だからもっとやりがいが持てると思っていた。
 だが、会社の規模が小さい分、会社や社長の粗が見えてしまい、結局不満はつのるばかりだった。
 

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