小説

『クリスマスの聖霊たち』和木弘(『クリスマス・キャロル』チャールズ・ディケンズ)

ツギクルバナー

 俺はクリスマスが嫌いだ。
 独身の五十男にとって、クリスマスにいったい何の意味があるというのだ。ましてや失業中の我が身にとって、街の浮かれた風景は目障りでしかない。
 むしゃくしゃした気分で、俺はハローワークの駐輪場からオートバイをスタートさせた。
 大通りを少し走り、俺の運転するバイクは交差点の右折ラインに先頭で入った。対抗の直進車が途切れず、気持ちはイラつくばかりだった。
 ようやく対抗車の流れが途切れたかに見えた。俺は勢い良くバイクをスタートさせて交差点を右折しようとした。だが、目測が甘かった。気づいた時には乗用車が俺の間近まで迫っていた。

 気が付くと、俺は一人で暗闇の中に立っていた。ゆっくりと周囲を見回すと、少し離れて薄ぼんやりと明るい所が見える。そこに杖をついた一人の男が立っている。男は俺に手招きをしている。
 ゆっくりと近づいてみると、それは白い髭をたくわえ、穏やかな目をした身なりのいい老人だった。
 その老人のすぐ横がぼんやりと明るくなっている。老人の手に促がされて、俺はそこを覗き込んでみた。
 そこに見えたのは葬式の光景だった。ちょうど吹き抜けの二階から式場を見下ろしているような眺めだ。よく見ると、遺体を囲んだ参列者の中に親父とお袋の姿がある。それに姉夫婦の姿も見える。
 いったい誰の葬式だろう? 俺は横たわっている遺体が誰なのか、目を凝らした。そして愕然とした。それは紛れもない、俺自身の姿だったからだ。
 親父は口を堅く結んで肩を震わせている。お袋は泣きながら棺に手をかけて身体を支えているが、今にも崩れ落ちそうだ。
 俺はついさっき交通事故に遭ったことを思い出した。あの事故で俺は死んでしまったのか・・・
 そう思った瞬間、胸が締め付けられるように苦しくなり、膝が震え出した。
 死というものが、これほど突然訪れるものだったとは・・・
 俺は今まで自分の死について深く考えたことがなかった。いや、考えないようにしていただけなのかもしれない。
 不思議と恐怖や悲しみ、怒りといった感情はなかった。ただ、猛烈な後悔の念だけがあった。
 

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