小説

『人魚姫』山口みやこ(『人魚姫』)

いつどこに暮らしても、何となく窮屈に感じてきた。子供の頃からだ。私にはそれなりに仲の良い両親と姉がいるし、経済状況だって恵まれている方だと思う。容姿が際立って良い訳でも悪い訳でもない。格別窮屈に感じる要素など無いにも関わらず、ずっと少しだけ居心地が悪いように感じ、黙りがちだった。それはサンフランシスコで暮らした小・中学校時代に悪化したように思う。元来の慎重な性格に加えて、英語が分からない事から来る心細さは私を一層寡黙にした。横浜の閑静な住宅地にある家に戻ってきてから、私達姉妹はお嬢様学校と言われる私立学校に通い。私は坂の上にあるお嬢様大学と呼ばれる大学まで粛々と進学した。特にやりたいことが見当たらなかったし、両親が望む様なお嬢さんでいる事に異議を唱えるほどの情熱を何物にも持ち得なかったから。

アメリカでは日々の生活と公立学校と週末通う日本人学校との両立に汲々としていて恋愛どころではなかった。中学2年生で帰国してからは大学卒業までずっと女子校で男性との接点がなかった。同級生は端正な顔をした俳優やチャーミングなアイドルにキャーキャー言っていたが、何故かTVは人間を駄目にすると頑なに信じる私の両親(と言ってもそう信じているのは父で、母は平日誰も居ない家で思う存分連続ドラマを観ている様であったが)は娘二人にニュース以外のTVを見せなかったし。小さな頃から活字中毒で「Bookworm(本の虫)」と囃されてきた私は、好きな異性を偶像化して疑似恋愛を楽しまない自分を不自然に感じたこともなかったように思う。姿を見掛けてドキドキするのが女の先輩なのも女子校にはよくある事だし、物語の世界でときめきを感じるのが凛々しいヒロインであるのも憧れなのだと思っていた。
 

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