小説

『シンデレラの父親』日野成美(『シンデレラ』)

「もう人も寄りつかなくなったこの家でたまさかに訪れる旅人を相手に、どうぞ自分を裁いてほしいと片っ端から願い出ては、笑われたり、罵られたり、果てには狂人扱いを受けたりいます。貴方様がああおっしゃってくださったことで旦那様が今夜だけでも、少しでもよく眠れるとよいのですが――」
 シャルルは黙って耳を傾けている。
「あの頃のこの家の主人はユージェニーの奥様とそのお嬢様方でした。ご主人様は影にすぎなかったのです。しかしそれでもいいと、旦那様はユージェニーの奥様をこの上なく愛しておいででした。支配されるのが好きなお方なのです。子供の頃からそうでいらした。ユージェニーの奥様とふたりのお嬢様方は、完全に旦那様を尻に敷いておいででした。この家具も、あの絨毯も、あちらの鏡も、あの三人が旦那様にせがんで無理をして買ってもらったものです。おかげでこの家の借財はずいぶんなものになっています。――いや、わたくしもずっとよその人としゃべっておりません。どうにも口をすべらせております。どうか口外しないでいただけると――」
 ヴァロワはしわだらけの口元をゆがめて微笑んだ。
「シンデレラのお嬢様は天使でした。あのような中でただひとり欲も得もなく、微笑みながら仕事についておられた。ひとつのことに忠実で、心根の素直でおだやかで……だからあのような幸運をつかめたのでしょうな。本当は旦那様は罰してほしいのではなく、許して欲しいのです。他ならぬシンデレラのお嬢様に。私は旦那様がいつかまた、日の当たる明るい場所で笑ってお暮らしになれるよう、日々神にお祈りしておるのです。一宿一飯の恩義をお感じになっていただけるなら、貴方様も旦那様のためにお祈りしてください。――ああ、もう十一時半ですか。明朝六時にお起こしに上がりましょう。ベルはそちらです。なにかありましたらお呼びつけください。それでは……良い夜でありますように」

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