小説

『鶴田一家』宮原周平(『鶴の恩返し』)

 電話をつないだまま身支度し玄関を出たところで電話が切れた。それから、電車に飛び乗り、10分ほどで田鶴駅に着いた。ホームに降りて電話をすぐにかけ直し周りを見渡した。電話は繋がらないまま。まだ駅の近くにいるかもしれないと思い改札を出た。手がかりはないが電話さえ繋がってくれればと思いひたすら電話をかけながら探した。汗だくで携帯片手に必死で何かを探す挙動不審なおっさんの様子はかなり目立ち、男子高校生を中心に笑われていた。

 結局レイナは見つからなかった。それから、駅へ戻り終電の時間を表示する電光掲示板を眺めながら改札の前で一人佇んだ。
 その時レイナから着信があった。
「終電なくなるから早く帰れよ…」
「今どこにいるんだ?」
向こうからはこちらが見えているようだ。きょろきょろ辺りを見回すと駅に隣接した二階のファーストフード店からこちらを見ながら携帯で話している女性がいる。かなり若くまだ10代のようにも見える。
「会わないよ…」
「どうしてもか?」
「うん…」
「そうか、わかった…でも、最後に一つだけ聞きたいことがある。子供を産もうと思ってるってのは本当か?それともお金もらうための嘘か?」
「…」
「そっか…それなら頑張れよ」
正直、もうどちらでもよかった。
「家族がいるって幸せだぞ。お前と話した数日間で改めてわかった。俺も子供は無理だろうけど、人生のパートナーくらいは見つけるよ。じゃー元気でな…ちゃんと罪償って幸せになれよ」
「…」
「おい、聞いてるか?」
 電話はそこで切れ、二階のファストフード店にいた女性も消えていた。
 終電を逃した私は歩いて帰ることにした。長い帰り道の途中、いろんなことを考えながら。今からでも家族を作れるだろうか。子供はもう無理かもしれないが、暖かい家庭を築きたい。そう、まだまだ俺だって…
 

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